はじめに｜美しい岬に刻まれた「悲劇」と「友情」の記憶
本州最南端、和歌山県串本町（くしもとちょう）。
太平洋を見下ろす断崖に、日本最古の石造り灯台である「樫野埼灯台（かしのざき）」が静かに立っています。
青い海と白い灯台が織りなす穏やかな風景は、訪れる人の心を癒やしてくれます。
しかし、この美しい岬が、かつて日本とトルコ（当時はオスマン帝国）の運命を深く結びつける、悲しくも温かい歴史の舞台となったことをご存じでしょうか。
それは、1890年（明治23年）の嵐の夜に起きた、凄惨な海難事故と国境を越えた懸命な救助の物語です。
この記事では、樫野埼灯台の足元で起きた「エルトゥールル号遭難事件」の真実と、そこから生まれた100年以上続く日本とトルコの絆について解説します。
やあ、ココロ船長だにゃ！今回はいつもの楽しい航海とは少し違って、涙なしでは語れない大切な歴史の話だにゃ。ハンカチを用意して、聞いてほしいにゃ。
1890年9月16日、嵐の夜の悪夢
明治時代の日本を訪れ、皇居での拝謁（はいえつ）を終えたオスマン帝国の軍艦「エルトゥールル号」。
彼らは日本国民からの熱烈な歓迎を受け、帰国の途に就くために横浜港を出港しました。
しかし、その旅路は台風シーズンの荒れ狂う海によって、最悪の結末を迎えることになります。
遠い国から来てくれたお客さんが、帰り道でこんな目に遭うなんて…。自然の力は時に残酷だにゃ。
台風との遭遇と「船甲羅」への激突
和歌山県の大島（現在の串本町）沖にさしかかったエルトゥールル号は、猛烈な台風に遭遇しました。
老朽化していた船体は、激しい風と波に翻弄され、操舵不能に陥ります。
そして運命の9月16日深夜。
船は、樫野埼灯台のすぐ下にある「船甲羅（ふなごうら）」と呼ばれる岩礁に激突しました。
船体破損部から流入した海水によって機関の爆発が起き、乗組員600名以上が荒れ狂う海へと投げ出されました。
587名の命が奪われた大惨事
この事故により、司令官を含む587名もの尊い命が失われました。
これは当時としてもきわめて大規模な海難事故の一つであり、現場の海は地獄のような光景だったと伝えられています。
しかし、その絶望的な闇の中で、一筋の「救済の光」が灯りました。
嵐の夜の岩場なんて、想像するだけで震えるにゃ。でも、そんな極限状態で、必死に生きようとした人たちがいたんだにゃ。
樫野埼灯台が照らした「救済の光」と村人の献身
断崖絶壁を這い上がり、傷だらけで助けを求めた数名の生存者がたどり着いた場所。
それこそが、闇夜を照らし続けていた「樫野埼灯台」でした。
灯台の明かりが見えた時、彼らはどんなに安心しただろうにゃ。ここから、村の人たちの奇跡のような救助が始まるにゃ。
灯台守の発見と緊急通報
灯台の明かりを頼りに、血まみれになって崖を登ってきたトルコ人水兵たち。
当時の樫野埼灯台の灯台守は、言葉の通じない彼らの様子から事態の深刻さを察知し、直ちに応急処置を行いました。
そして、台風の中を駆け抜け、近隣の大島村（現在の串本町樫野地区）の住民たちに助けを求めたのです。
「食べるものがないなら」村人たちの無償の愛
通報を受けた村人たちは、総出で救助活動に向かいました。
当時の大島村は決して裕福ではなく、台風の影響で漁に出られず、自分たちの食糧さえ尽きかけている状況でした。
しかし、村人たちは「目の前の命を救いたい」という一心で行動しました。
- 冷え切った生存者たちを温めるため、自分たちの着物を脱いで着せました。
- 非常食として大切にしていたサツマイモやニワトリまでも提供し、温かいスープを作って振る舞いました。
- 生存者69名の命を救い、亡くなった人々の遺体を手厚く埋葬しました。
この献身的な救助活動は、国や言葉の壁を超えた「人間愛」そのものでした。
自分たちも苦しいのに、困っている人を助ける。なかなかできることじゃないにゃ。この優しさが、100年後の奇跡につながるんだにゃ。
100年の時を超えた「恩返し」と現在の絆
エルトゥールル号遭難事件から95年後の1985年。
イラン・イラク戦争の戦火の中で、取り残された日本人を救うために、トルコ政府がある決断をしました。
それは、まさに「エルトゥールル号の恩返し」とも呼べる奇跡的な救出劇でした。
「情けは人のためならず」って言うけど、本当に歴史はつながっているんだにゃ。胸が熱くなる話だにゃ。
テヘランの奇跡（1985年）
イラク軍による「48時間後の無差別攻撃」が迫る中、テヘランの空港には脱出できない200名以上の日本人が取り残されていました。
日本からの救援機が飛ばせない絶体絶命の状況で、救援機を派遣してくれたのがトルコでした。
「かつてエルトゥールル号の事故で、日本人が私たちを助けてくれた。今度は私たちが助ける番だ」
トルコ航空機は、自国民よりも日本人を優先して乗せ、戦火の中から救出してくれたのです。
串本町にある「トルコ記念館」と慰霊碑
現在、樫野埼灯台の近くには、この歴史を伝える「トルコ記念館」や「トルコ軍艦遭難慰霊碑」が建てられています。
串本町は、日本とトルコの友好交流として、今も5年ごとに盛大な追悼式典が行われています。
映画『海難1890』（2015年公開）では、このエルトゥールル号の悲劇とテヘランでの救出劇が描かれ、多くの人の涙を誘いました。
灯台に行ったら、ぜひ記念館にも寄ってほしいにゃ。トルコの人たちがどれだけ日本を大切に思ってくれているか、よく分かるにゃ。
日本最古の石造り「樫野埼灯台」の見どころ
歴史の証人である樫野埼灯台は、現在も現役の灯台として海を照らし続けています。
最後に、灯台自体の魅力とアクセス情報をご紹介します。
歴史を知ってから見ると、灯台の光がもっと温かく感じるはずだにゃ。螺旋階段を登った先には、絶景が待っているにゃ！
「日本の灯台の父」ブラントンが手掛けた傑作
樫野埼灯台は、明治3年（1870年）に初点灯した、日本で最初の石造り灯台です。
設計したのは、「日本の灯台の父」と呼ばれるリチャード・ヘンリー・ブラントン。
明治期の意匠をよく残す石造りの外観は歴史的価値が非常に高く、土木学会選奨土木遺産「樫野埼灯台」として認定されています。
日本の灯台の歴史｜なぜ明治時代に作られた？「日本の灯台の父」ブラントンとは
螺旋階段を登って太平洋を一望
この灯台は、内部は原則非公開ですが、外付けの螺旋階段を使って展望スペースへ登ることができます。
螺旋階段を登り、踊り場に出ると、そこには見渡す限りの太平洋が広がっています。
かつてエルトゥールル号が航行し、そして村人たちが救助に奔走した海を、高い場所から静かに眺めることができます。
アクセス情報
- 場所： 和歌山県東牟婁郡串本町樫野
- アクセス： JR串本駅からコミュニティバスで約45分。「樫野灯台口」下車、徒歩約5分。
- 駐車場： あり（無料）
晴れた日は本当に気持ちいい場所だにゃ。でも、ここが「命を救った場所」だということを、心の片隅に置いて景色を楽しんでほしいにゃ。
まとめ｜嵐の夜に生まれた絆は、永遠に消えない
今回は、樫野埼灯台とエルトゥールル号遭難事件について解説しました。
記事のポイントを最後におさらいします。
- 1890年、串本町沖でトルコ軍艦エルトゥールル号が台風により遭難し、587名が犠牲になりました。
- 樫野埼灯台の灯台守と貧しい村人たちが、懸命な救助活動を行い、69名の命を救いました。
- この恩義はトルコで語り継がれ、95年後のイラン・イラク戦争での日本人救出（テヘランの奇跡）につながりました。
- 樫野埼灯台は日本最古の石造り灯台であり、現在は「トルコ記念館」と共に友好のシンボルとなっています。
灯台は、船の道しるべであると同時に、人々の「希望の光」でもあります。
和歌山を訪れる際は、ぜひこの美しい岬に立ち寄り、海を越えた友情の物語に思いを馳せてみてください。
悲しい事故だったけど、そこから生まれた絆は本物だにゃ。困った時はお互い様。そんな当たり前の優しさを、灯台が教えてくれている気がするにゃ。また次の航海で会おうにゃ！
